なぜバットマンは「残って欲しい」と言えなかったのか 映画「ザ・バットマン」解説とネタバレ
ここでは2022年公開の映画「ザ・バットマン」のストーリーやネタバレを含む感想、解釈を紹介しています。
ザ・バットマン
バットマンの「嘘」とは?
公開初日に見てきました。
個人的に「最高」です。
ダークもダーク、超ダークでございます。
いろんな角度で見ていきましょう。
ストーリー
ゴッサムシティの市長選の最中、現役市長が殺される。
顔にはガムテープが巻き付けられていて「嘘はおしまい」と書かれている。
現場検証に刑事がバットマンを連れてきた。
周りの警察は「なんであいつがここにいるんだ」「変わり者め」と小言を言っている。
殺人現場には「バットマンへ」と書かれたカードとナゾナゾが書かれていた。
市長の足どりを追っていくと、ある「裏クラブ」で悪い人達と繋がりがある事がわかってくる。
写真には市長と通称「ペンギン」というクラブのオーナー、さらに市長はある女を連れていた。
その女を見つけ出したバットマンは後をつける。
女はもう1人の女性と暮らしていた。
事件が進む中で、女がいなくなったのでバットマンは探し始めるが、同棲している女性も探していて、お互い同じ目的だという事で協力することになる。
そんな中、リドラーと名乗る犯人が自らSNSに登場する。
彼は「もう嘘は終わりにする」と言い、次々と人を殺していく。
殺された人の繋がりを調べていくと、すべてはブルース・ウェインの父のプロジェクトに起因する事がわかってくる。
以前、ブルース・ウェインの父が市長に立候補した時、彼は莫大なお金を街の再生のための基金を立ち上げた。
しかし、父が銃弾に倒れた時、基金は管理者がいなくなり、その金欲しさにあらゆる人間が群がったのだ。
しかも警察や司法側までもが嘘をついて金を貪(むさぼ)り始めた。
リドラーはそれが許せず、1人ずつ重要な人間を殺していくことにしたのだ。
そして、最後の標的はブルース・ウェイン本人だった。
バットマンと女性(ライダースジャケットと覆面を被った姿がキャットウーマンに見える:以後キャットウーマン)は裏クラブで手がかりを探していた。
しかし、キャットウーマンに届いたのはいなくなった女からの最後のメッセージで、殺されるところの酷い音声だった。
キャットウーマンは復讐をしようとバットマンに持ちかけるが、バットマンは「それではあいつらと同じになってしまう」と拒否する。
リドラーはさらに1人を殺したところで、平然と捕まってしまう。
彼の家には膨大な量の手書きの本とあらゆる装置のプロトタイプなどが混在していた。
バットマンは刑務所に入っているリドラーに会いにいく。
リドラーはやっと会えた喜び、自分たちがこの街を新しくするんだとバットマンを仲間のように扱った。
しかし、バットマンはこれを拒否。
取り乱すリドラーだったが、更なる計画が控えている口振りをしたときにバットマンがうろたえる。
それを見て「こうなることを予想できなかったの?思っていたほど優秀じゃないんだねー。」と言う。
その後、街のあちこちで爆発が起き、海水が街の中になだれ込む。
町中がパニックになる中、さらにリドラーの仲間がリドラーの格好をして銃を市民に向ける。
彼らを倒し、市民を助けるバットマン。
その様子をテレビで見て悔しがるリドラー。
最後
街を出ようとするキャットウーマンとそれを見送るバットマン。
キャットウーマンは「私に残って欲しい?」と聞く。
はっきりと言えないバットマンはキスをしそうな、したそうなそぶりを見せる。
キャットウーマンはそれに応じようとするも、直前でやめ、バイクで走り去ってしまう。
端的ネタバレ
リドラーっていかれたやつが、街で不正している奴を次々に殺していく。
その元になったのがバットマンの父の立てた基金、つまり金目的だった。
警察も司法も街のことなんてお構いなしにお金に群がる。
バットマンはリドラーを追い、逮捕はするものの、街は爆破と洪水で壊滅的なダメージを受ける。
感想
いやー、最高に面白かったですね。
考察というか、解釈しがいのある映画でした。
何より中二病くすぐる演出が続いて最高でした。
いくつかの点で振り返っていきます。
映画のテーマ
まずはこの映画のテーマです。
この映画は3つの軸で出来ています。
「リドラーを追う」「バットマンの動機」「女」です。
見る時によって見方が変わると思いますが、初見の私は基本的に「女」ラブロマンス的テーマの上に「リドラーを追う」アクション部分と「バットマンの動機」ミステリー部分が乗っかっているように感じました。
皆さんはどうだったでしょうか?
この映画は非常に長いですが、それでも持ち堪えられるのは映画3本分のストーリーとジャンルを適度に混ぜているからだと思います。
肝心のテーマですが、まずはポスターを見てみましょう。
こちら。
「LIES(嘘達)」と「?」のマークです。
そうです、この映画のテーマは「嘘」なんです。
普通に考えるとブルース・ウェインがバットマンという「嘘」をついている、ということです。
しかし、これはもっともっと深いです。
再開発という「嘘」で警察が正義という「嘘」を振りかざし、金を漁る。
それが嫌だったリドラーは分かりやすく言うと「完璧主義者」です。
実は、この映画の中で軸がぶれないのはリドラーのみで、バットマンも嘘をついています。
この嘘は次のテーマで解説します。
バットマンはリドラーに負けた
ちょっと過激なタイトルですが、これがこの映画の良いところです。
この映画の中のバットマンって、ヒーローじゃないですよね、ほぼほぼ闇の存在で恐れられています。
冒頭の悪人達が暗闇を見た時に「バットマンがいるんじゃないか」と怖がってしまうように。
警察官もバットマンを毛嫌いしています。
バットマンは「父親を殺した悪党に復讐するため」という復讐が基本的な動機です。
劇中でも自分を「復讐者」と自己紹介しています。
簡単にいうと闇落ちしちゃってるんです。
彼は正義を成し遂げようとなんてしていません。
映画の最後に市民を助けた時に初めて「ヒーロー」になるのです。
しかも、この「復讐」という動機にさらに「女」という動機が見え隠れし始めます。
これはリドラーという純粋な行動理由を持った人と比べると明らかに動機が不純です。
リドラーはバットマンも純粋な動機をもとに動いていると思っていたので親しみを感じていたのだと思います。
そういう意味で、バットマンは今作では「負け」だったのではないでしょうか。
しかし、逆にそれが市民を助ける「ヒーロー」としてのバットマンの誕生にもつながるのです。
平凡で残酷なラスト
この映画で1番重要な部分です。
ラスト、キャットウーマンはバットマンに「私に残って欲しい?」と聞きます。
実はこれ、通常の映画だとクライマックスのドタバタの最中に質問される事が多いです。
でも、今作では静かな場面でさらっと質問されます。
さらに、普通は「残って欲しい」と言ってしまうと相手を危険に巻き込んでしまうという状況になるのがほとんどです。
そういう時に女性ではない方を選択する(のが普通な)ので「別れ」は悲しいですが見ている方も納得します。
今回はどうでしょう。
もし彼女に残って欲しいとお願いしても彼女への危険は増えません。
むしろ身体能力や格闘技術からしても一緒に戦っても全く問題ありません。
なのにバットマンは別れを選びます。
これは一つ前で紹介した「バットマンの負け」を自分が感じていたからだと思います。
自分の動機が復讐だった、さらに女性への気持ちでも動いてしまった、リドラーと比べて自分は不純だった。
なので、リドラーに勝つ、さらにはバットマンの使命(正義)を全うするためにも「純粋な正義である必要」があると考えたのだと思います。
この選択肢は平凡であるが故に残酷だったのです。
しかし、これがバットマンを「復讐者」から「ヒーロー」に変えた瞬間だったのです。
ヒーローとしてのバットマン誕生の瞬間です。
PS
あと、キャットウーマンもキスをしないであげるなんて、優しいですね。
あそこでキスしてたら確実に引きずってると思います。
ダースベイダー
これは私が感じたことなのですが、劇中のこの曲、何かに似てませんか?
あの闇の皇帝「ダースベイダー」の曲に似てませんかね?
もちろん、似ているだけってこともあると思いますが、私は映画を見ながら「これはダースベイダーだ!」と感じました。
ヒーローになる前の「闇落ちしている男」を象徴しているのだと思います。
特に、ペンギンを車で追ってて炎と中から登場した後のこの曲は痺れました。
もうそこにバットマンなんていなかったですよね、真っ黒な「闇の復讐者」だったように感じます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
語りたい事が山ほどありますが今日はこの辺で。
もう一回見に行ったら何か加えるかもしれません。
最後に、この曲を聴いてお別れです。
(帽子かぶってフードかぶって口元隠して土砂降りの中相手を監視している気分で聞いてください)
この記事を書いた人
tetsugakuman
基本的にはダークな映画を好む。
スリラーバイオレンスホラーミステリーサバイバルSFアクションなど。