心理学で読み解く 映画「死刑にいたる病」ネタバレと感想

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ここでは映画「死刑にいたる病」の端的なネタバレと解釈、個人的な感想を紹介しています。

死刑にいたる病

その病、とは。

久しぶりに劇場で邦画を観ました。

自分の趣味である「心理学」が随所に出てくるところも含めてかなり楽しめました。

いつもはストーリーを可能な限り書きますが、今回そこは省略します。

端的ストーリー&ネタバレ

24人を殺し、死刑判決を受けた死刑囚に主人公が呼び出される。

面会すると「立件された9件のうち、1件は私はやっていないんだ」と告白される。

主人公は犯人を探し始めると、自分の母親と死刑囚とのつながりを知る。

そして、自分が死刑囚と母親との子供だと感じる。

さらに犯人探しを続けると1人の男に行き着く。

しかし、その人は犯人ではなく、実は死刑囚が犯人だったと知る。

死刑囚が実の父親ではないと判明するが、主人公は死刑囚の欲望を自分も持っていることに気づき始める。

感想

毎度ではありますが、演技や配役についてはノーコメントです。

邦画らしいというか、しょうがないというか、その辺は許容範囲内です。

ただ、あのサークルのリーダーは本当に嫌な奴って感じで最高でした。

すごく良い俳優だと思います。

あと、拷問シーン、めちゃくちゃちゃんと映すじゃないですか・・・。

邦画でそこまで爪剥がしをしっかりやっちゃうなんて・・・、製作者の気合を感じます。

ここからは個人的見解を含めて気になった部分を掘り下げていきます。

①映画のテーマ

この映画のテーマは非常にシンプルです。

「死刑にいたる病」とは何か?です。

どんな病なのかを考える必要があります。

結論から言いますと、それは「個性」だと思いました。

映画に出てくる殺人鬼は個性の塊です。普通なところは一つもありません。

例えばシャツの時に首に巻いてる布、水門を開ける時の服装などかなり個性的です。

紅茶に牛乳を入れず砂糖をかなり多めに入れているところが個人的には印象的でした。

それでいて「一見普通に見える」のです。

だって「町のパン屋さん」ですからね。

その対称として描かれているのは父です。

普通の服装、団塊の世代らしい亭主関白、風呂上りにビール、世間体を気にする、などなど。

そんな「普通の父親に虐待される」主人公は「個性的で優しい殺人鬼」に見出されます。

皆さんは人に言えない、実行したりしたらいけない「欲望」という名の個性はありませんか?

誰にでもあると思います。

それを実行したら「死刑にいたる」ので症状が出てしまうその「病」とは個性なのではないかと思いました。

ちなみに、主人公の個性の開花を犯人は望んでいたのだと思いますが、犯人の影響で「爪に興味を持つ」というところで止まっています。

しかし、ヒロインは確実に主人公を獲物と捉え、血に覚醒するという個性を発揮しています。

どちらの犯人に見出されたがヒロインの方が早く開花したのだと思います。

スカッシュという日本では競技人口の少ないスポーツをやっていたり、するのを「個性」というテーマに沿ったものなのかなと深読みしました。

②犯人の目的

犯人が主人公(とヒロイン)に手紙を出したのはなぜか。

何が目的で「9件目の犯人は自分じゃない」と嘘をついて事件を追わせたのか。

それは「後継者の育成」が目的だったのではないでしょうか。

犯人はパン屋で獲物を選ぶとき「頭が良くて、優しくて、将来有望な、でもまだ何者でもない人」を基準にしていた。

つまり、まだ「個性」を開花させていない人だ。

で、ここからは推測なのですが、そんな人達の中で虐待などのトラウマが強い人、かつ、自分が反抗を繰り返していた時には若すぎた人を後継者候補にしていたのではないでしょうか。

トラウマが強いほど開花する個性が強くなる。

自分の後継者として有能である可能性が高い、ということです。

なぜ後継者が必要なのかは、犯人は裁判所で犯行を「必要」だと応えたところに感じました。

自分と同じ個性を持ち合わせるかもしれない人に「必要」なことを伝えておく。

なので、主人公やヒロインの他にも手紙を出している可能性はあります。

その中で面会に行って事件を追うだけの行動力と知能を持っていた主人公とヒロイン。

先に開花したヒロインに主人公のことを犯人は教え、距離を縮めた。

ラストは想像するしかありませんが、主人公はヒロインの獲物になったのか、それをきっかけに主人公も開花したのか。

いずれにしても、犯人は後継者を作ろうとしたのだと思います。

③登場する心理学

ここからは知っている限りで登場している心理学を見ていきます。

ダブルバインド

【2択を出すことで相手に選ばせ、自分で選んだと思うことでその選択に責任を保とうとする。】

劇中で犯人は「君が決めて」というセリフが何度か出てきます。

これは選択肢を相手に与えているようで犯人が選択肢を操っています。

例えば「痛い遊び、自分にするか相手にするか、どっちにする」という2択を出します。

そうすると人はこの2択の中から選ぼうとするため、選んだことに罪悪感が生まれます。

本当は、どっちも選ばなくてもいいんですよ、3つ目の選択があってもいいんです。

なのに、なぜか2択を出されると人は選んでしまいます。

顔にあざのあるロン毛の人はその2択で自分ではない人を選ぶことで「自分の選択であの人は死んでしまった」=「自分が犯人」と思うようになります。

一貫性の法則

【自分で決めたことを最後まで通そうとする。】

先程のダブルバインドの続きになりますが、自分で決めたらそれに責任を保とうとします。

例えば、見ず知らずの人に「この荷物、トイレに行っている時だけ見ててもらっていいですか?」と言われてOKをしたとします。

すると、その荷物を取ろうとする人がいたら、守りますよね?

自分が「荷物を見る」と決めたのでそのことに一貫性を保とうとしているのです。

他人のバッグなので「見ておく」ことをOKしても、別に取られたってあなたに害はありません。

ただ「自分でやると言ったのにやらなかった」というふうになりたくないのです。

それが一貫性の法則です。

承認欲求

【人は誰もが承認されたいと思っている。】

心理学とはすこし違うかもしれませんが、ここはこの映画の中で非常に大きなポイントです。

なぜかというと、犯人は常に自分以外の人を承認し続けているからです。

これが人を操る方法の根幹です。

世界的ロングセラー「人を動かす」という本では「とにかく相手を承認する。そうすると相手は自分のために動いてくれる」と書いてあります。

そう、犯人は常に周りの人を褒めて承認して自分の思い通りに動かしています。

主人公の行動にも「すごいじゃないか、1人でここまでわかったなんて」と、とにかく褒めます。

普通、人は自分のことを話そうとします。

だけど、映画を通してずっと主人公は自分の話をしません。

例えば、裁判所で「もし捕まっていなかったら犯行を続けていたか?」という質問に対して「はい、私には必要だから」と答えます。

普通は「なぜ必要なのか」と自分語りをしそうなところですが、そういうことはしません。

ひたすらに他人を承認して自分の思い通りに動かす。

それはこの映画の犯人です。

レッテル貼り

【相手にレッテルを貼ることで相手の印象を操作する。】

これは良い方にも悪い方にも使えます。

「君は優しい子だよ」とか「君は頑張ってるじゃないか」とか、そういうレッテルを貼ることで承認できます。

逆に「ブス」と呼んだり変なあだ名をつけることもレッテル貼りに近いと思います。

それを言った人の感想や思い込みなだけなのに、あたかもそれが自分の評価になってしまうような感覚になります。

例えば、誰かと親密になりたいとき、自分だけが呼ぶあだ名をつけることで仲を縮めることができます。

ハロー効果

【第一印象で評価してしまう。】

この映画をみた皆さんは、途中まで主人公と同じく「9件目の犯人は別にいる」と思ったのではないでしょうか。

私もそう思っていました。

しかし、普通に考えて「事件が起こらないような小さな町に殺人犯が2人いる確率」がどのくらい低いか。

これは犯人の口からも出てきますよね。

なのに主人公も含めた我々は犯人に悪い印象がないため「9件目は違う人がやったに違いない」と思ってしまいました。

実は犯人の弁護士はそう思っていません。

なぜかと言うと、犯人の本性を知り尽くしているからです。

途中で犯人が子供の頃の残酷無比な犯行を知って我々はハッとさせられました。

それでも、まだ「犯人は他にいる」と私は思ってしまいました。

これには一貫性の法則も働いています。

「あの人があんな事するなんて信じられない」という発想の多くはハロー効果と一貫性の法則なのです。

ミラーリング

【相手と同じ行動をする事で親近感が湧く。】

これは劇中でかなり印象的だったのですが、主人公は葬式でも飲み会でもビールを飲まなかったのに、母親と話す時だけビールを飲んだ。

これは無意識に行ったミラーリングだと思います。

相手がビールを飲んでいる、自分もビールを飲む事で「仲間」のような感覚も出てきますよね。

そうする事で本音や真実を引き出そうとする。

プラシーボ効果

【印象でその効果を想像する事で実際にその効果が出てしまう。】

1000円のワインより8000円のワインの方が美味しく感じる、みたいな事です。

主人公は途中で「自分は殺人犯の子供」と思い込む事で通常以上の行動力や自信を持ったと感じます。

しかし、実際に犯行に及んでみたところ、違うと感じた。

④印象的な演出

オープニングも非常に印象的で良い演出だったと思います。

劇中でもなかなか気づけないような演出がいくつもあったので思い出せるだけ書き出していきます。

・周りがスローになる

主人公が大学構内に入ったり出たりする時、主人公は通常の速度なのですがバックにいる人達がぼやけてスローになっています。

これは主人公を特別な存在にするためのような演出かなと思います。

・ガラスの反射に首の部分が重なる

かなり意図的だと感じましたが皆さんは気づきましたか?

主人公が面会している時、カメラが犯人側にあって主人公を写している時、主人公の首の部分に犯人の胴体の反射が見事に重なります。

これは主人公が”犯人のように”喋っている時に出てくる演出だと思います。

つまり、主人公が殺人犯のように喋っている時に重なるような演出になっていると思います。

・爪と桜

これはいうまでもないですが、日本人しか引っかからない演出ですね。

予告でも出てきますが「あー桜の花びらかー、ん?花びらに血がついてるのかな?」ってなりますよね。

で、後からそれが花びらではなく爪だと知って「・・・!!!!」となります。

映画鑑賞数日後に街を歩いていて地面に桜の花びらを見つけた時に腹筋に力が入るのを感じました。

もう多分桜の花びらを普通に楽しめなくなりました・・・。

まとめ

かなり語ってしまいましたが、つまり2回目見たらかなり楽しめると思います。

特にヒロインがどうやって主人公に近づくかっところは初回では注目していなかったので、2回目は注目して見てみようと思います。

あと、これは小説でも読んでみたいと感じたのでそのうち読んでみようかなと思います。

追伸

超個人的にですが、映画の中と自分の共通点があったので、それも映画を面白いと感じたポイントでした。

まずは犯人と自分の(苗字じゃなくて)名前が一緒だった。

フィクションとはいえ24人殺した犯人と同じ名前ってだけで変な特別感を感じました。

あと、主人公って普通の服を着ているのですが、ラスト前でヒロインとスカッシュやってる時フレットペリーのポロシャツ着てるんですよね。

だから何って感じですが、私が映画を見た時に着ていたのもフレットペリーでした・・・。

なんか、映画と不思議な縁を感じる瞬間でした。

この記事を書いた人

tetsugakuman

tetsugakuman

基本的にはダークな映画を好む。
スリラーバイオレンスホラーミステリーサバイバルSFアクションなど。